寓話
ちょうど宙塔猫のアレティアス少尉が、開かれた宙塔の基壇下部への入口を開
いて、どこまで続いているのか、また下方へと続く長い階段を降りているその時、
ケルマン寺の文書保管庫で、とにかく読める書を取っては手当たり次第に斜め
読みしていた飼主は、とある本の最後のあたりを読んでいました。
飼主 なんだ最後は寓話じゃないのか。
『極東寓話集』
附 第15話 銅銭
*『極東寓話集』第1話「水牛」および第15話「銅銭」は、うるたやより別冊
『極東寓話集』として刊行されています。
飼主 なんだかものすごい話だったな。
とても全体を把握することも出来ない文書類を拾い読みして時間を費やした飼主は
宙塔文書のどこをどう読んでも、異界を含むこの世界の構造と、各世界間の移動
方法と理論について、明確に書き表した内容に接することはできないと絶望しました。
飼主 可能世界のバリエーションが連続しているようでもあるし、全く異なる
中心から展開している別の可能世界の層もあるように見える。ということは
どういうことだ?
そこへ、ケルマン寺の司祭を伴ってふくが現れます。
ふく 飼主様、宙塔が鎮西軍に襲撃されたそうです。
飼主 私は今、すべてのことが実現可能だと信じるに至ったが、それだけはあり得ない。
ふく 黒猫隊が宙塔特別区の警備隊を鎮圧して内部に侵入したとのことですが。
飼主 行こう。そうでなくても私は宙塔に行かなければいけないんだ。
あの場所ですべて明らかになるはずだ。私は文書類の中に秘密があると思った
が、異界への行き方は分からなかった。
その間黙っていた司祭が口を開きます。
司祭 この数日飼主様のご様子を拝見しておって思ったのですが、飼主様は宙塔が
異界通路だというのをもしかしてご存じないというようなことはありませんか。
飼主 いやもちろん存じております。宙塔のみが異界へ繋がっていることも。
ただ、方法が分からないのです。
ふくが飼主の言葉を紙に書いて司祭に見せます。ケルマン寺司祭の名はアラガンと
いいました。彼はこのとき初めて自らの過去と宙塔との関わりについて話します。
アラガン 私はかつて宙塔猫でありました。宙塔から異界へは「跳躍」すると申し
ます。しかし、そのあの宙塔の先端に登って飛ぶと思われるならば、その
ようなことはございません。実のところ、跳躍するのですが、そのために
は潜るといいますか、籠もるようなことを行うのです。一連の跳躍のために
実行されるプログラムの中核を「連脱シークエンス」と申します。
飼主は膨大な宙塔文書に沈潜して分析する覚悟をしながら、早くも絶望していましたが、
最も知りたかったことを、すぐ近くに居たアラガンが語り出したので、しばらく宙塔へ
向かうのを止めてアラガンの語ることに集中しました。
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