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Channel: クルシャの天地
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わりと本当にある怖い話

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ブログ書き始めて10年以上経つわけですが、寒いから怖い話でも書いてみようと思います。ほとんどの記事は備忘録のようなものですが、今回は構成を意識してみたい。
本当にあった云々の怖い話には、体験者AだのCだのが出て参りますが次に書きますのは飼主の実体験なので、存在すら怪しい人物の体験を想像で補うようなことはありません。




昨日、一旦家に戻ってから、夕方頃にクルシャ君に挨拶をして、禁帯出の資料が保管してある古い事務所に出かけた。夕焼けの残り空に早くも店じまいする商店街の店主らに顔を覚えられていて「お出かけですか、行ってらっしゃい」などと言われ、いくらか歩いて事務所の入っている建物に到着。セキュリティを解除して、建物内に入り、階段を使って自分の机に向かう。
当日のすべての業務は終了しているので、この建物全体には飼主しか居ない。この戦前に造られた頑丈な建築物は石造りとなっており、フロアーが三層になっていて、各所に広い階段がある。
左右に翼を拡げ、中央が小さなドーム状になっている。この建物に余り大きな窓はなく、明かり取りの為に中央ドームが三階まで吹き抜けとなっている。アーチとなった中央部分の天井には補強と装飾のために梁が巡らされていて何やらその梁には浮き彫りのような模様も見える。だがその装飾文様も長年の劣化で判然としない。白い穹窿には後の工事により天窓が追加されていた。このホワイトヴォールトが画する吹き抜けの真横に、飼主の机がある。




吹き抜け部分から手すりを越えて真下を覗くと、飼主が入ってきた玄関フロアが見える。飼主の机のある場所は資料棚に囲まれているが、吹き抜け部分の西側の明かり取りスペースを占有したような、建物西翼の両脇に連なる部屋からすれば、廊下の延長にある資料置き場のような、全くの窓際だった。

貶黜された面倒な奇人が居座るにはうってつけというわけで、西翼の王として君臨できたわけだが、王と言っても犠牲の王のようなもので、いつ何の切掛ですべて一掃されても誰も気にしないような区画となっている。
資料棚はホウイトヴォールトにむけて伸びている。それらは列をなして机を囲んでいて、吹き抜けの手すり側の面にも並んでいる。そのため、形としては一面つまり廊下からの入り口の一端を残して、四囲を壁で巡らした部屋の体裁を為していると、言えなくもない。

飼主は早速事務所設置のPCを立ち上げてサインインし、自前のPCに保存してある書類と更新された書類とを比較し、確認のため、資料棚の鍵を取り出して中の古い書類から、過去について新たに指摘された事実が記載通りであるかどうかを確認し、報告書を作る作業を開始した。

何の問題も無い。何の、問題も無い!改めて、飼主が夕を過ぎてからこの陰気な建物に戻ってきた理由である、早急な確認をせよというメールを開いて見ると、8年前の日付になっている。8年前のメールが、8年前に終わらせた仕事の指令が新着として再送されていることに気付くこととなる。この日の再作業は徒労だった。

気を抜くと、古い換気ダクトが外気で震えているいつもの環境音が気になるがもっと気になるものがある。
この建物の吹き抜けには、東翼があって、西翼と同じ窓際部屋があって飼主の部屋の向かい合わせに見えている。資料棚は西翼より少なくなっていて、目隠しとなる壁はこちら側の半分しかない。ここにも飼主と同じような境遇の者が埋もれているのだろうか。そうは思いはするが、気にしたことも覗いたこともない。しかし、昨夜は少し違った。

東翼手前の区画の廊下側には、大きな製図台がひとつ置いてあり、製図台の上には長いアームで光量や角度を調整できるLEDの黒い外装をしたライトが設置されているのだが、そのライトの端から何か小さな黄色いものが現れたり消えたりしているように思われた。






飼主は自分の作業を手仕ってから、鞄を携え、コートを着込んでから南側にある20世紀初期の様式のまま残されている窓から外を見る。雨が小降りになっていて、街路にはナトリウムランプの黄色い光が濡れた路面を照らしているが、歩行者も車もない。葉を落とした街路樹が並んでいるだけだ。この建物には飼い主しかいない。南側の丸窓に嵌まっているガラスは、蒼古たるもので、吹きガラスの底を平らにして円くした部分を切り取り、更に削ったものであるから、窓から見えるその色も光りもすべてが歪んでいる。

この光か。先ほど向かいの製図台上にあるデスクライトの端に見えた何か黄色いものあれはこの光が反射したものだろう。

自分の足音だけを聞きながら、いつもの階段を通り過ぎて、初めて東翼の部屋を見に行く。最後の退出者として、あやしげなものは確認しておきたい。と、例のデスクライトからまた黄色い何かが現れて消える。光ではない。何か固形のモノだ。
より近付くと、何もない。しかし、製図台と黒いデスクライトの脇には、西翼の部屋と同じサイズの資料庫があって、より重厚な造りであったことが確認できた。そして、観音開きタイプの扉には鍵が掛かっていないようだ。





ここから立ち去ろう。
今は雨を運んできた風も止んで、ホワイトヴォールトの天窓を叩く小雨の音が僅かに聞こえるだけだ。
東翼の区画を出て、もう一度振り向いたときに、まず黄色いモノの正体が判った。それは飼主に向けられているスマホのカメラで、iPhone11のイエローだったのだが、スマホを手にしているモノも黄色い。

人間の半分ほどの大きさで、黄色く長い毛か羽毛のようなものが全身を覆っている。目は漆黒。人型だが、短躯で手足も短い。顔の造作は毛に埋まっていて、ほとんど判らないが、短く細い嘴が毛の中から、ちょうど口のあたりから飛び出している。その嘴は、上下で噛み合うようには出ておらず、ずれた位置で交差するように上下する。
直後に空いた資料庫の奥からまた輝くような玉がいくつも見えたように思うが、スマホのカメラかもしれない。とにかくここから先を覚えていない。

今は、左腹の肋骨の真下に出来ていることに気付いた、スマホのレンズの位置と形に符合する、妙な黄色い痣の手当をしたいと思っている。


©うるたや 2020 02

はい、これ体験しましたよ。もう、典型的な入眠時幻覚ですね。本当にあったんだからしょうがない。怖いですか?

ここに謎があります。この話の中に単語で出て来ないある言葉が自動的にストーリーと場面の
シークエンスの主題となっています。その単語とは何でしょうか?



ウルタールのうる: 巻三十一 (うるたやBOOKS)
東寺 真生 

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